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5月27日

手術当日。雲が少し多くなっている。沖縄はすでに梅雨入りしているから、熊本が梅雨入りするのは目前だろう。

手術は午後1時半から麻酔、手術自体は2時ごろから始まり、順調に進めば1時間から1時間半で終了する予定だった。手術が終わったら米澤先生より連絡がはいることになっていた。3時過ぎだろうか、電話があるのは。

仕事が手につかない。

1時半から目の前の電話を、じっと見つめてばかりで、2時間が経過した。

壁掛けの時計が刻む秒針の音だけが響く。自分の心臓の鼓動までがこの事務所に響くかのように脈打っている。

3時半を回った。

電話はない。

何かあったのだろうか。不安になる。

4時を過ぎた。

どうしたのだろう? 

5時を過ぎるようならこちらから電話してみよう。そう思っていた瞬間に、電話が鳴った。

1回の呼び鈴だけで受話器をとった。

 

米澤先生だった。

手術前の内視鏡検査で、グレード3であった事、そのまま手術になり、気管軟骨がかなり弱く柔らかかった事、この後進行がないように出来るだけ胸の方まで手術した事、途中で縫合した部分が破けて時間がかかった事などを説明してくださり、それでも無事に手術は終わったとの言葉に安堵した。

「明後日こちらから状態を聞きに電話します」と先生に伝え電話を切った。

終わった。

無事に終わった。

 

早速妻に報告した。

どれだけ喜ぶだろうと思ったら、

「なぜ明日電話をするって言わなかったの・・・毎日聞かなきゃ心配で眠れないでしょう・・・私は怖くて電話もできないのよ」

って切れられた。(苦笑)

順調に経過していくだろうかと心配していたが、水曜日の米澤先生からの電話で、またまた夫婦二人で喜んだ。

「順調すぎるほど経過はいいですね。予定通り日曜日に迎えにきていいですしょう」

電話の向こうでリクが「ワンワン」鳴いていた。あれは確かにリクの声だった。やっぱり騒いでいる。

さあ、準備!準備!迎えに行こう!

 

5月31日

今回は早めに出発することにした。月曜日には熊本へもどり、また出張(と言っても高速1時間のところなのだが)が入っていたため、無理はできない。それくらい今週はキツかった。東京で一泊して体力を温存しようということになった。

それでも、元気なったリクを迎えに行く方だったため、結構ウキウキしていた。1200kmは気にならない。

金曜の夜9時出発した。もちろん妻のおにぎりを持って。

「リクは、自分たち見た時どうするだろう。多分うれションして妻を舐めまわすだろうな。」

リクに会える嬉しさで運転も軽快になり妻との会話も弾む。

 

広島近くで仮眠した。5~6時間は寝ようと思ったが、やっぱり車内は熟睡できず、4時間ぐらいで目が覚めた。そしてまた出発。一週間ぶりの東京行きは、高速も、120kmの距離も経験済みだったため、前回よりは緊張していなかったかな。

 

土曜の夕方には東京へ到着した。心はウキウキだったが、身体は正直だ。私が口唇ヘルペス、妻は微熱がでた。

やはり1200kmの運転は、私たち夫婦に確実な疲れを満たし、身体は年相応の反応をしたといい事だろう。軽く夕食を食べて、明日のために早めに就寝した。

 

日曜日の朝はやっぱり早めの目が覚めた。一週間ぶりにリクに会える、こんなに嬉しいことはない。

9時30分にホテルを出て、アトム動物病院へ。一週間前と同じ景色だったが、今日の方が晴れ晴れとして風も気持ち良く感じた。

 

米澤先生から手術内容の説明をして頂き、X線写真で手術前と手術後の気管を見せてもらった。狭かった気管が、広くなっている。手術前と比べると、はっきりと真っ直ぐに胸の中へ通じる気管があった。

息ができる。これで、空気をいっぱい吸う事ができる。

ホッとした。やっぱり手術をしてよかった、東京まで来てよかった。

今回の選択は、絶対に間違っていなかった。

そして、いよいよリクとの再会。

結構吠えていたらしい。今日もあまり興奮しないように鎮静剤を使ったらしい。だから、フラフラしながら出てくるんじゃないか?、私達がわかるのか?

そんな心配をしながら、待合室で待った。

「どうぞ、お待たせしました」

いよいよ対面。

中に入ると、少し小さくなったように感じたリクがいた。ぼーっとしているようだったが、予想通り妻に抱かれるとペロペロ舐めていた。よっぽど寂しかったんだろうけど、僕らも寂しかったんだよ。

米澤先生に感謝を伝え握手していただき、慌ただしくアトム動物病院を後にした。フラフラしているリクを車に乗せ、熊本に向け出発した。米澤先生から少し咳をする説明があったが、たまにするリクの咳は前とは全然違った咳だった。もう苦しそうにも見えない。リクをこの手で抱きしめる。リクがこの手の中にいる幸せを、心から感じた。一週間の寂しさも忘れてしまいそうに、和やかな空間だった。今度はゆ~っくり休憩しながら帰ろう。

 

パーキングで休憩しリクにご飯をやろう思ったが、鎮静剤で少しフラフラしている状態で食べる事ができるだろうか?。

しかし、心配したのは一瞬だけだった。

あっという間に全部食べてしまった。食欲は昔と全然変わっていない。

・・・、むかし?

そう、こんなに楽そうな呼吸。手術前の苦しい呼吸は、もう昔の事だった。

だんだん鎮静剤も切れ、元気なリクが戻ってきた。

 

前回と違い、天気は少し悪い。西に戻るにしたがって、雲が多くなり時々小雨もぱらついた。そろそろ梅雨の頃なのかもしれない。でも、熊本の湿気と熱を含んだ梅雨も、この呼吸なら心配ないだろう。日が暮れ、車の量が少しずつ減ってきて、夜になりずっと走り続けた。

日付が変わり、じっとりとした湿った空気が外を漂い、関門トンネルを超えた。真夜中だが、見慣れた高速、見慣れた景色を過ごし、やっと帰ってきた。そして、ゴール。

AM4時。きつくはあったが、幸せを感じながらの17時間のドライブだった。

東京-神奈川-静岡-愛知-三重-滋賀-京都-大阪-兵庫-岡山-広島-山口-福岡-ほんの少しだけ佐賀をかすり、熊本と、実に15の都府県を跨いだ1200kmの2往復の旅が終わった。

 

少し咳はするけれど、昔の苦しんでいるリクじゃない。今年で11歳になるリクじぃだけど、私たち二人と一緒にまだまだ幸せな時を過ごしたい。

 

 

あれから、もう少しで1年が経つ。

治らない病気だと宣告され、手術をしても死ぬだけだと一喝され、こんなに元気なリクがいなくなる恐怖に駆られていた去年の5月だった。

リクを助けたい。この苦しさから解放させてあげたい。

リクともっと一緒に生きたい。

 

その想いだけで走りきった1200kmを2往復、トータルはなんと4800kmの長い旅だった。4800kmは、地球で換算するとどれくらいの距離なのだろう?

ネット検索によれば、4800kmは3000マイル超。アメリカ大陸の1番広いところ、つまり、シアトルからボストンまでの距離に相当する。

リクに対する僕らの想いは、アメリカを悠々と横断したんだ。

楽ではなかった。でも、無理じゃなかった。

リクは、全く普通の生活を取り戻せた。

 

遠い彼方に、偶然見つけた希望の光。

途方もない距離、ひどく遠くに見えた微かな光だったが、私たち夫婦は、ただ一つそこに輝く光を求めて走り続け、辿り着いた。

その想い、そして無謀にも思えるその行動は、それまで当たり前だったこの街・熊本で暮らす、夫婦二人と1匹の、どこにでもある普通の暮らしを取り戻すことを可能にした。

 

そして、2015年の5月現在。

あれから2年。

 

リクは、元気に、呼吸も全く楽な状態で、毎日を過ごしている。

今年のGWも仕事漬けだった。このご時勢に、休みも取れないほどに仕事がある事自体に感謝しなければならない。何年も前に亡くなった父から教わった、男としてのあり方だ。自分がそうだったように、娘は社会の中で自分自身の仕事、自分自身の役目を探し、自身の夢や幸せを求めて巣立って行った。そう、その原点を教えてくれた父だ。ただひたすらに、ただ寡黙に、男は仕事を、そして家族を大事に・・・。

 

リク、ありがとう。

 

 

 

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